2024.04.26

株式会社 鎌倉ハム富岡商会

人の手という道具に代わるものはない

手には、その人の人生が表れるといいます。どんなものを持ち、どのように触れたか、何を繰り返し行なったのかが、歴史となって刻まれるからでしょう。あらゆるものが機械化された現代でも、まだ人の手でしかできない仕事はたくさん残されています。

明治33年(1900年)に創業した「鎌倉ハム富岡商会」の看板商品である布巻きロースハムは、現在も職人の手による伝統製法によってつくられています。ひとつのハムができるまで約2週間。人気商品ゆえに注文が多く、生産が間に合わないこともあるほどですが、職人の勘による作業工程を機械化することはできなかったそうです。「人の手という道具に代わるものはない」とは、創業からずっと伝わる鎌倉ハム富岡商会の精神。なるほど、職人たちの手にはたしかにハムづくりに懸ける情熱と、120年を超える会社の伝統が刻まれていました。

日本のハムの歴史が始まった街のひとつ、鎌倉

歴史ある寺社仏閣や遺跡が点在する、散策が楽しい古都・鎌倉。「鎌倉ハム」の歴史はこの地で始まりました。ときはペリー来航10年後の1863年、英国人のウイリアム・カーティスが来日し、しばらくしてハムやベーコンの製造を開始します。当初カーティスはハムの製法を秘密にしていましたが、ある日地震により工場が出火し、それを助けた地元の村人たちにお礼として製法を伝授しました。このハムは鎌倉・箱根・横浜などの一流ホテルで提供され、宿泊客の間で話題を呼び、「鎌倉ハム」の名が広まっていったのです。

新しいものを貪欲に追いかけた男の先見の明

鎌倉ハム製造業者のひとりであった富岡周蔵(とみおかしゅうぞう)氏は、駅弁の製造販売会社「大船軒」を開業し、日本初のサンドウィッチの駅弁を販売していました。これが評判となり食品業者からハムだけの注文が殺到したことから、ハム製造部門を独立させて誕生したのが「鎌倉ハム富岡商会」です。ちなみに、大船軒のサンドウィッチも今なお鎌倉の味として健在。シンプルでとてもおいしいので、大船・鎌倉を訪れた際にはぜひ食べてみてください。

さて、富岡周蔵氏は「新しいものはすぐに見に行け!」が口癖だったそうです。常に最新のものにアンテナを張っていた彼は、電気がまだ一般に利用されていない時代にいち早く欧米の冷蔵庫を導入。これにより、冬場にしか製造できなかったハムが年中供給できるようになり、一般の食卓にまで広がっていきました。私もこの鎌倉に越してきて3年、スーパーに行けば日常的に鎌倉ハム富岡商会のハムやベーコンを手にしています。鎌倉エリアに住む人にはお馴染みのブランドです。

「命」を扱うからこそ、機械化できないハムづくり

そんな歴史ある鎌倉ハム富岡商会の哲学の結晶ともいえるのが、返礼品の「熟成布巻きロースハム」。今回、このハムの伝統の製法について伺うべく「鎌倉ハム富岡商会 鎌倉工場店」に向かいました。案内してくれたのは、こちらの3名。左が営業の安藤慶さん、右が古泉智章さん、そして中央がハム職人の生産部・望月岳人さんです。

布巻きロースハムは、厳選された国産豚を使用し、磨き・漬け込み・布巻き・燻煙という作業を経てつくられます。すべての工程を終えるまでにかかる時間は約2週間。1日につくれるのは200個程度だそうです。「まず最初に行うのが、『磨き』という作業。豚肉の塊から、スジや軟骨、多すぎる脂肪など余分なものを削いでいきます。これにより、赤身と脂肪のバランスがいいハムの基をつくります」と望月さん。豚肉を美しく磨く所作はまるで彫刻のよう! それぞれ別の命、個体を扱うからこそ、丁寧に作業していきます。

生き物のように扱うハム

続いて行うのが「漬け込み」。豚肉は味付けのため、木樽に入れられ、塩漬液に漬けられます。この液の配合や濃度は会社の「秘中の秘」といわれる機密事項。「漬け込んだあとは、上下の肉を入れ替える『手返し』の作業を毎日行います」(望月さん)

漬け込みにより、肉の中にあった水分が抜け、かわりに塩漬液が肉に入り熟成を進めていきます。

熟練の職人だけが行う、「布巻き」

そして工程の中で最も熟練の技が必要となるのが「布巻き」です。漬け込んだ肉を布で巻いていくのですが、この「包み」の作業が何より難しいのだとか。「ひとつひとつ形状の違う肉の個体からハムの完成形を瞬時に見極めて、上下左右に圧を加えて成形するのがこの工程です。巻いたあとに布から水が浮き出るくらいしっかり巻くのがとても難しい。できるようになるまで早くても5年くらいかかります」(望月さん)

包まれた肉は、糸で締められ、私たちが手にするハムの形となります。「布巻きの作業はとても華やか。ここに立つ職人の先輩たちの姿はかっこよくて、社員から見ても憧れなんです」とは安藤さん。布巻きされた肉は一晩冷却され、乾燥した後、桜のチップでじっくりと燻煙されます。ここまでの作業を2週間かけて行い、ようやく布巻きロースハムの完成です。

ギュッとした肉感、バターのような脂……!

こだわり抜かれた布巻きロースハム、オススメの食べ方を聞いてみると、「まずは、そのまま。5mmくらいにカットして、ハムそのままの味を食べてみてください」(望月さん)とのこと。箱を開けてみると、まずハムのボリューム感に胸が躍ります。そして紐解く瞬間のワクワク感ときたら! スライスしてそのままひと口。塩気のあるお肉のギュッと濃厚な味、そこにバターのようななめらかな脂が自然に混ざり合います。そして最後にフッと抜ける燻製の香り……。これは、食材というよりもはや料理。調理をせずともハムだけで完成度の高い味わいを醸し出しています。

「僕はまだ入社して3年ですが、鎌倉ハム富岡商会の歴史とハムづくりへのこだわりについては自信を持ってお話ができます。文化的な街・鎌倉で生まれて、この地に育ててもらった商品なので、ふるさと納税を通じて地元に還元できることがうれしいです」。営業担当の古泉さんはふるさと納税への思いを語ってくれました。

冷蔵庫に「いいハム」がある生活をおくろう

冷蔵庫に布巻きロースハムが来てから、私の生活は少し変わりました。人気のパン屋でバゲットを買ったり、ハムに合いそうなワインを見繕ったり。まず、買い物が楽しくなりました。個人的には、バゲットにバターと布巻きロースハムだけをはさんだシンプルなサンドイッチが大好きです。

そして、仕事に行き詰まった日でも、子どもが体調をくずした日でも、家に帰れば冷蔵庫にハムがある。ごほうびが家にある生活は、なんとも心強いものです。これまで「高級ハム=贈答用」というイメージがありましたが、これは、あえて自分のために買うのもオススメですよ。

文章:宮島 麻衣(みやじま まい)

鎌倉ハム富岡商会 KDA-605 熟成布巻きロースハム

鎌倉ハム富岡商会 KDA-605 熟成布巻きロースハム

参考寄附額28,000

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