KAMAKURA TERRACE
ひとり手作業で家具をつくる鎌倉の木工作家
歴史ある寺社仏閣と美しい海や山が共存する神奈川県鎌倉市。この街に、手仕事でひとつひとつ丁寧に家具を作り続けている木工作家がいます。「KAMAKURA TERRACE」の清水久雄(しみず ひさお)さんです。
清水さんは、鎌倉市の山崎地区に工房を構え、家具や雑貨の企画・デザイン・制作・販売を一手に担うKAMAKURA TERRACEを2013年にスタートさせました。以来、心を込めて丁寧に、暮らしの中にすっと馴染みながらもどこか個性的な家具や雑貨を作り続けています。
個人的な”あったらいいな”から生まれたユニークな家具
清水さんのつくる家具は、ユニークな発想にあふれています。例えばこの、動物の脚がついたようなデザインの家具は、横につなげたり重ねたりできる対のローテーブル。声をかけたらそばに駆けつけてくれそうです。「家具を擬人化するのが好きで、このような脚がついた家具は照明やテーブルなどほかにも制作しています」と清水さん。
こちらは、持ち手が付いた箱が引き出しになっているサイドボードです。引き出しが簡単に持ち運べる設計になっているのが心にくいですよね!
ダイソン、マキタなどの掃除機を立てかけられるスタンドも。ついそのあたりの壁に立てかけてしまいがちな掃除機を、まるで楽器のように美しく置いておくことができます。隠すのではなく、あえて見せるという発想がなんともユニーク。
「スタンド自体の高さがあるので、出し入れする時も安定しやすく使いやすいですよ。こういった家具は、自分で”こういうものがあったらいいな”と思ったものから発想して作ってみることが多いです」と清水さん。
建築的発想がベースにあるデザイン
清水さんは、アメリカ東海岸にある造形大学のロードアイランド・スクール・オブ・デザインで建築を、その後ニューヨークのコロンビア大学大学院にて建築設計と都市デザインを学び、インターンを経て帰国。建築設計のほか、デザイン会社でグラフィックデザインも手がけました。
デザイナーとして忙しい日々を送りながらも、当時魅力を感じていた江戸指物の塾の門を叩きます。「江戸指物は釘を使わずに木を組み上げて作る木工品です。もともと自然なものが好きだったことと、自分の手で最初から最後まで作り上げられるところに惹かれました」。そうして清水さんは、江戸物指で学んだ技術とデザインの経験を活かし、「現代のインテリアにもなじむ、身近な家具を自分の手でつくろう」と、スタジオを設立しました。
大量生産ではつくれない、細やかなセミオーダーメイド
返礼品となっているソファサイドテーブルは、KAMAKURA TERRACE一番の人気商品。本体に釘やネジを使わず、しっかり木を組み上げた構造になっており、ここにもしっかりと江戸指物の美学が活かされています。
テーブルは30cm四方の手頃なサイズで、飾り台や花台としても使い勝手の良いマルチユースな点も魅力です。ディテールまで美しく、テーブルの縁にもさりげない装飾が。1930年代ニューヨークの「アール・デコ」を意識した直線的なデザインです。
「脚がソファの下にグッと入るので、ソファに座ったときにテーブルがちょうどよく身体の横に来るようになっています。フロントには本や雑誌を一冊置けるようになっていて、お部屋のちょっとしたアクセントにできるのがポイント。テーブルの脚が少し斜めになっているのは、本を安定して置けるようにするのと、立ち上がって見たときに本の表紙を見やすくするためです」
一見シンプルなデザインながら、清水さんの細やかな心配りが詰まっていることがわかります。木材は、すべて北米産のハイグレードな無垢材を使用しており、明るい色味のオークと落ち着いた深い色味のウォールナットの2種類からお部屋の雰囲気に合わせて選ぶことができます。
さらに嬉しいのが、テーブル面の高さを家のソファの高さに合わせて5mm単位で調節するセミオーダーができること。注文後にお電話などでのヒアリングを経て、お客様が一番使いやすい高さで制作します。組み立てられた状態でお届けするので、すぐに使うことができます。
時間はかかるけれど、細かい仕上げまで自分の手で丁寧に
現在、ふるさと納税からの注文が相次いでいるというKAMAKURA TERRACEの家具。「鎌倉の街にも貢献できますし、作り手としても選んでいただけることは本当にうれしいです。一からすべて一人で制作するので、通常は制作に約2週間をいただきますが、注文を多くいただいている時期は注文からお届けまで3カ月ほど、お時間をいただく場合もあります。細かい仕上げまで丁寧に行い、よい品物をお届けしたいと思っています」。
そう語る清水さんの手にふと目が留まりました。ご本人の雰囲気からすると意外なほど大きな手と太い指。「最初はこんな手ではなかったんですが、物を作っているうちにどんどん大きくなってしまって。指にも筋肉がつくんですかね?」
最初から最後まで自分で面倒を見る。その大きな手で作られた家具はどれも美しく、不思議な存在感がありました。
文章:宮島 麻衣(みやじま まい)
木目は“チャームポイント”。木材との一期一会を楽しんで
最後の塗装仕上げに使っているのはドイツ製のオイル。健康に害がなく木にも良い素材で、オイルに色がほとんどついていないため、木そのものの風合いや模様が美しいまま楽しめるのだそうです。
「木目は、その木の個性を表現しているチャームポイント。どんなテーブルが手元にやってくるのか出会いを楽しみに、長く愛してもらえたらうれしいです」。できあがった商品ひとつひとつが清水さんの子どものようなもの。子どもを送り出すような優しい眼差しと深い愛情をその言葉から感じることができました。