株式会社豊島屋
参道脇に構える豊島屋の本店
古くは武家社会が誕生した鎌倉時代から、鶴岡八幡宮は「鎌倉の守り神」、「武士の守り神」として人々の拠り所となり、今に残る多くの歴史や文化の起点となってきました。今回ご紹介する「豊島屋」は、そんな鶴岡八幡宮へ続く参道、若宮大路の入り口あたりに本店を構えています。
今回ご紹介する返礼品は、鎌倉を代表する銘菓である「鳩サブレー」。名前が示す通り、鳩を模した形が特徴の、ぷっくりと厚みのあるサブレー。ひと口食べるとバターの香りが口いっぱいに広がり、サクッと軽い食感と昔懐かしい優しい甘みを楽しむことができます。幅広い世代の人に愛されてきたロングセラーです。
ここ本店では、他にも美しくて美味しい和菓子を購入することができます。鎌倉の街が表現された和菓子や、四季を感じる和菓子など。本店へお越しの際には、ぜひ「鳩サブレー」と一緒に楽しまれてみてください。
鎌倉を代表するブランドとしての誇り
お話を伺ったのは、豊島屋で広報を担当される宮井通昌(みやい・みちあき)さん。昭和63年に入社してから20年以上、販売スタッフとして「鳩サブレー」の魅力を伝え続け、その後本社へ異動されました。営業、人事、総務などを経験され、現職。ご自身が販売員時代には、「お客様からお得意様へ、お得意様からご贔屓様へ」という言葉をモットーに掲げ、「鳩サブレー」や豊島屋をどれほど好きになっていただけるか、いかに「豊島屋じゃなきゃ!」というお客様をつくれるか、ということに誠心誠意向き合ってきたそうです。
そんな宮井さんを含めて、多数ある売店の店頭に立つ販売員のほとんどが、アルバイトやパートタイムではなく、社員というから驚きます。「隅々まで目が届くよう、また丁寧に自信を持ってお客様と向き合うことができるよう、なるべく社員がお店に立つことを大事にしています」。同時に、店舗展開にもこだわりがあると宮井さん。遠方から出店のオファーがあっても、断っているそうです。
「鎌倉あっての『鳩サブレー』なんです。鎌倉に育てていただいたので、恩返しがしたい。全国展開するといったナショナルブランドではなく、あくまでローカルブランドとして神奈川県内や都内の著名な百貨店などに限って出店しています。地元を大切にしたいという思いは、今も昔も変わりません」
初代の思いが詰まった「鳩サブレー」
始まりは、1枚のいただきもの。初代店主が和菓子店として豊島屋を始めて間もない明治30年頃のことでした。お店に訪れた外国人から、見たことのない大きな楕円形のお菓子をいただいたそうです。その美味しさにいたく感動した初代は、「このお菓子をつくろう!」と決め、それから試行錯誤の日々が始まりました。
なんとか納得いくレシピが完成し、試作を船長である友人に食べてもらうと、「フランスのサブレーというお菓子に似ている」と言われます。また鶴岡八幡宮を崇敬していた初代は、かねてから八幡様にちなんだお菓子をつくりたいと考えていました。本殿に掲げられた額の「八」の字が2羽の鳩で表現されており、境内の鳩が子ども達に親しまれていたことから、このお菓子を鳩の形にすることに決めました。豊島屋のコーポレートロゴにも、2羽の鳩があしらわれています。このようにして「鳩サブレー」は、誕生しました。
ところが、順風満帆とはいきません。少しずつ認知され、ファンも増えてきたタイミングで豊島屋の前に立ちはだかったのが、「関東大震災」と「第2次世界大戦」という2つの出来事でした。関東大震災では地震、火災、津波の被害を受けて店舗は全壊。その後、なんとか再建にこぎ着けたものの、大戦直前の1941年にはお菓子の原料が入手できなくなり、休業に追い込まれます。ですが、「良い菓子」を作り続けたいという初代の強い思いで、なんとか再建し、この大きな試練を乗り越えることができました。
初代が試行錯誤して完成させた形やレシピを大きく変えることなく、昔から変わらぬ味を届けている豊島屋。「シンプルであること、単に高い素材というわけではなく“『鳩サブレー』に合った素材”を使うこと、無添加であること。そしてサックリして香ばしい食べ口を求め、毎日丁寧に焼き続けています」と宮井さん。子どもから大人まで、誰がいつ食べても、美味しく安心できるお菓子です。
昔から変わらぬ缶の入れ物
返礼品となっているのは、44枚もの「鳩サブレー」が分厚い缶の入れ物に入った大箱です。缶の入れ物には愛らしい鳩のフォルムと黄色い色が全面にプリントされ、一目で豊島屋と分かるデザインで、これも昔から変わりません。キーカラーである黄色は、「バターが溶けた色」をイメージしているのだとか。缶の入れ物は、捨てずに再利用されている方も多いそうです。私自身も昔、手紙やハガキを保管する用として活用していました。
どっしりと重みがあります。ご家族のおやつに楽しんでも、小分けにしてお土産にお持ちしても、いいですね。
本店へ、鎌倉へ足を運んで欲しいから
本店に足を踏み入れると目が行くのは、ずらりと並ぶたくさんのオリジナル商品たち。鳩をモチーフにしたかわいらしいクリップや付箋、ボールペンといった文具が豊富に用意されています。どれも、鎌倉にある本店でしか手に入らない商品です。これらの商品は一体どのように開発されているのか伺うと、驚くべき答えが返ってきました。「コアなファンづくりの一環として、この売り場を考えたのは4代目社長なんです。具体的な商品内容も、全て社長が考案し、手がけています。もはや社長のライフワークでもあるのかもしれませんね」と、宮井さんは笑います。大々的な宣伝はしていないものの、SNSなどの口コミで広まり、今では鳩グッズを目当てに本店まで訪れる人も多いそうです。
販売を本店限定にしているのは、「鎌倉に来てもらいたい」という4代目社長・久保田陽彦(くぼた・はるひこ)さんの願いから。久保田さんは鎌倉市の商工会議所の会長も務められており、豊島屋だけでなく鎌倉という街全体を盛り上げていきたいと、日々考えられているそうです。
文章:庄司 賢吾(しょうじ けんご)・ 真帆(まほ)
昔からの鎌倉の味を、これからも
いつの時代も、変わらぬ見た目、味、心で届けられてきた「鳩サブレー」。これからは、オンラインストアにも力を入れていきたいと宮井さんは言います。「コロナ禍では、直接来店はできなくとも、贈答用に『鳩サブレー』を購入したい、という多くの方からオンラインでご注文をいただきました。直営店はやはり鎌倉を中心に、というスタンスは変わりませんが、ふるさと納税の返礼品をはじめとして、ここ鎌倉から全国の方へ『鳩サブレー』をお届けしていきたいと思っています」。
時代がどう移ろおうと、鎌倉を代表する銘菓として、豊島屋はこれからも伝統の味を守り続けていきます。ぜひ、鎌倉の歴史や街に思いを馳せながら、味わっていただきたいお菓子です。